EPAMのコンセプト

 EPAMのコンセプト

 

1.環境政策評価のための経済モデル

 

 環境政策評価とは、中央地方の政府によって行われる環境政策の妥当性、効果を把握と判断を行うことである。環境政策事態は多様なものがあるが、ここで特に注目するのは経済システムjの反応を重要な意味を持つものである。

 環境政策自体は、(1)企業や消費者などの経済主体の自発的努力の促進を目指したもの、(2)経済主体の経済的利害に訴えて、目的とする政策効果を実現しようとするもの、(3)環境負荷(汚染、生態系劣化、廃棄物)を生み出す主体を直接に規制・制御してその削減を目指すものに分けることができる。公害の時代はこの最後のものが主体だったが、1980年代以降、地球環境問題が発生することによって(1)(2)に重点が移ってきている。直接的な規制は、その効果の見通しを得やすい。しかし、前二つのような、間に社会システムが媒介してる経済政策の場合は、目的とする効果を実現できるかどうかが見えにくくなる。

 (1)(2)と(3)の重要な違いは、経済主体に与える「選択の自由」の程度である。前二者が最後のものとは違って、経済主体に大きな選択の自由を与えるものであることは、容易に理解できるだろう。自由主義的精神と整合的な政策となっているといってもよい。それはきわめて重要な長所であるが、同時に、選択の自由が与えられているからこそ、反応が読みにくくなってしまっているのである。

 このような問題に対応するために、反応と因果関係を構造化した環境政策評価モデルが必要になってくるのである。モデルは必ずしも数学的なモデルでなくてもよい。因果関係が概念的に表現されているものであってもモデルである。しかし、経済のような因果関係が高度に数量的なものの場合、数学的モデルによって表現するのは自然であり、無理がない。

 

2.部分均衡モデルと一般均衡モデル

 

 こうした環境政策評価モデルとしては、部分均衡に基づくものと、一般均衡を前提としたものが考えられる。(この際、均衡モデルか不均衡モデルかというのは、重要な問題ではない)

 部分均衡モデルは、直接関係付けられた経済的な変数だけに注目する、特定の市場や財に注目するといってもよい。したがって、一般均衡モデルは、可能な限り広くその因果関係を捉えていこうとするものである。その意味では、両者は厳密に区別されるものではなく、目的とすること、あるいは考え方の差異にあるといってもよいだろう。

 部分均衡モデルによる分析は、因果関係を理解しやすいレベルで表現するという大きな長所がある。しかし、自発的な取り組みの促進や経済的な政策の場合、環境政策の目的自体が、マクロ化ないしは国民経済全体にかかわるものとなっている場合が多く、そうなると部分均衡モデルでは対応できなくなる。精密な描写には限界があるが、大枠で経済の相互依存関係の全体を捉えた一般均衡モデルが必要となってくるのである。ただし、当然だが、一般均衡モデルの場合、部分均衡がもっていた原因と結果にかかわる透明性が失われるという弱点を持っている。

 一般均衡モデルも、現実のデータからパラメータを計量経済学的手法によって推計することを重視したものと、応用一般均衡分析といわれる、理論的整合性を重視して、パラメータは特定の時点の経済全体を再現するように設定するものの二つに大別される。前者は、経済システムが生み出したデータが持っている情報をできる限り生かして、経済構造をモデル化するが、モデルが理論から離れてアドホックな想定になってしまうという弱点がある。後者は、情報を生かす程度は低くなるが、経済理論に表現された分析者の認識や理解の枠組が生かされ、それによって研究者間のコミュニケーションの容易さも生み出すという長所がある。すなわち、モデルが、できる限り理論と整合的であるように作られるために、モデル間の相互比較が容易なのである。

 環境政策評価モデルは、予測モデルではなく、政策手段と目的との整合性を検証する役割を持っている。予測のように結果と現実の誤差の小ささがモデルのパフォーマンス評価の決定的な基準になるというのではない。単純な言い方をすれば、政策の事前チェックがモデルの主要な目的なのである。経済理論との関係を重視している応用一般均衡分析は、経済構造の想定に対する操作性が高く、必ずしも予測の正確さに縛られず、政策評価に必要な多様な視点を提供するものとして、妥当性が高いと考えられるのである。

 

3.環境政策評価への特化

 

 EPAMは環境政策評価に特化した応用一般均衡モデルである。無目的に経済全体を表現しようとしているわけではない。環境政策の、政策手段に対応する変数、重視される結果を表現する変数が適切に組み込むように工夫されている。

 Ver.0.3で可能な政策評価は、経済手法としての二酸化炭素税、産業廃棄物税、そして、自発的対策促進に関わっているエネルギー効率改善に関するシミュレーションが可能になっている。それらの変数が組み込まれていることは当然だが、経済システム全体のパフォーマンスに関わっている、生産と消費に関わる大体の弾力性などのパラメータとしての変更も可能になっている。また、環境税の課税に対して、所得税や資本税の減税によって税収中立のシミュレーションも可能になっている。

 また、部門分割に際しても、(1)エネルギー関連部門の可能な限りの分離独立化、(2)廃棄物とリサイクルに関わる部門の分離独立化を、可能な限り試みている。そして、産業部門については、40部門に分割し、各産業の反応を詳細に捕らえるようにしている。

 

4.2000年産業連関表への準拠

 

 応用一般均衡分析において、基準均衡の再現は、計量モデルにおける統計的検定と同様の、モデルのパフォーマンスあるいは信頼性を検証する手段である。基準均衡とは、シミュレーションの出発点となる特定の時点の経済状態を表現したデータの全体を、与件だけを与えることによって、確実に再現することである。この点で失敗している応用一般均衡モデルは、シミュレーション結果に対して信頼性を得ることができない。

 したがって、基準均衡の前提となるデータセットは、それ自体が整合性を持ったものになっていなければならない。このデータセットとして、EPAMは2000年の産業連関表を前提にしている。この2000年の産業連関表データは、公開されたのが20004年春であり、最新のものである。産業連関表は、そのままで一般均衡が表現されているという重要な特長をもっている。また、部門数は400部門以上に分割することができ、生産部面は詳細な構造を捉えることができる一方で、需要部面は、それらに対応した財の最終需要が、消費や投資、政府支出などといった集計された項目となっていて、生産と消費は必ずしも同じ扱いを受けているとはいいがたい。具体的には、たとえば、消費についてもいろいろな階層の消費の可能性があるわけで、その点での精密化はなされていない。

 一般の応用一般均衡分析では、この点も考慮されて消費の所得階層化が行われているのであるが、EPAMでは、環境政策上、所得階層別にどのような影響を与えるかが問題として必ずしも重視されない。この点で、産業連関表と同じような簡素化が行われている。

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